『ゴーン・ガール』とは、“ヤバい女”に追い詰められていく男を描いたサスペンス映画。監督はデヴィット・フィンチャー、主演をベン・アフレック、ロザムンド・パイクが務める。デヴィット・フィンチャーならではのダーティーでバイオレンスな作風と、ロザムンド・バイクの「悪女」っぷりが高い評価を受け、数々の映画賞で話題をさらった。
【こんな人におすすめ】『ゴーン・ガール』の魅力とは
『ゴーン・ガール』は2014年に公開されたサスペンス映画。ダーティー且つシリアスな演出と心理描写に優れているだけでなく、要所要所の見せ場と起伏のあるストーリーに惹きこまれる作品だ。
徐々にヤバさや危険が顔を出してくる恐怖展開は、直接的な描写のあるホラー映画よりもよっぽどホラーしている。『危険な情事』『氷の微笑』などと並んで「悪女映画」の名作としても名高く、ひたすら“ヤバい女”を観たい人におすすめ。
また、ほかの「悪女映画」と違って当事者間のトラブルに終始せず、【男女の対立】【当事者とマスコミや世間の関係】についても大きく取り上げている点も魅力だと思う。社会という真綿で首を締めていく展開は、この『ゴーン・ガール』が持つ最大の魅力だ。
映画『ゴーン・ガール』のあらすじ
とある夫婦と周囲で巻き起こるトラブルを取り扱った本作には、色々な登場人物が登場する。あらすじの前に、一旦主要人物を整理していく。大まかな登場人物とその関係を整理しておくと、中盤以降に繰り広げられる展開をゲーム的に楽しめるかもしれない。
ニック:バーを経営している青年。あるパーティーでエイミーに出会い一目惚れし、幸せにも交際・結婚に至るが・・・。
エイミー:有名作家を父に持つ美しき女性。ニックと結婚した当初はラブラブだったが、徐々に幸せな結婚生活にも陰りが見え始め、遂には失踪してしまう。
ボニー:地元警察の女性刑事。失踪事件をきっかけにして、部下とともに夫婦間のトラブルを探っていく。
【ニック陣営】
マーゴ:ニックの双子の妹。ニックとともに「ザ・バー」を営む。家庭環境に恵まれなかったこともあってか、兄のニックとの信頼関係は強固。
タナー:追いつめられたニックに助け舟を出した敏腕弁護士。常に理性的で適切な処理をして、トラブル続きのニック・マーゴを援助していく。
【エイミー陣営】
メアリーベス・ランド:エミリーを“完璧”に育て上げたエイミーの両親。母のメアリーベスに関しては、ニックに対して明らかな不信感を抱いている。
エレン:ニュース番組の司会者。エイミー信者ともいえるキャスターで、自身と番組の影響力を利用してニック・マーゴを追い込んでいく。
コリングス:エイミーの元カレ。エイミーに対してまだ恋愛感情を抱いている。それなりに社会的な地位を築いているようだが、完璧主義・束縛気質な男。
アンディ:ニックの教え子であり不倫相手。ニックに距離を置かれるなどして逆上、ニック・マーゴを追い詰める(≒エイミーの味方になる)。
油断していく外ヅラ夫と意気消沈する妻
5回目の結婚記念日を迎えたニックとエイミー。エイミーからニックへ恒例の宝探しクイズが仕掛けられていた。しかし、いつもと違う異様な雰囲気を察知したニックは、エイミーが失踪したことに気付く。ニックが警察に相談した結果、捜査と同時並行で有名な両親同席のもとで記者会見をすることに。
かつて、なんてことないパーティーで出会い、交際を重ねていく頃の2人はまさに幸せの絶頂だった。ライブラリーでセックスに明け暮れたりするほど身も心もラブラブ。
しかし、不況によって職を失ったことや、ニックの母を看病するために都会から田舎町「ミズーリ州」へ引っ越したことなどが重なり、夫婦仲は完全に冷め切っていた。
ちょっぴり感想!
サスペンス要素が色濃い本作は、基本的にずっと映像が薄暗い。それはシリアスシーンだけでなく、2人の出会いを描く場面でも同様。
陰影のある2人の表情はシリアス場面だとブラックに、そして恋愛的な場面だとセクシーで少しロマンチックに映る。この微妙な変化はキャッチーさがないものの、『ゴーン・ガール』の魅力を一貫して表現している気がする。
このほかにも、シャツに脇汗が染み出ているベン・アフレックが見れたりするのも面白い。
追い詰められていく夫と独白する妻
地元警察によって捜査が進められていく中で、ボニーは金銭問題・DV問題があったことの証拠、そして台所の床から大量の血液があった痕跡を見つけ出す。すべてはニックにとって不利なもので、エイミー失踪事件の疑義(エイミー殺害・死体遺棄容疑)がニックに向けられていく。
シチュエーションが変わり、晴れやかにドライブ中のエイミーが映る。エイミーは生きていたのだ。一連の騒動はすべてエイミーが首謀者であり、夫・ニックに殺されたように見せかけた彼女の復讐劇だった・・・。
ちょっぴり感想!
ここで繰り広げられるエイミーによる長尺の独白シーンは、サスペンス作品として結構ありがちでオリジナリティーはない。だが、この独白シーンが中盤で訪れ、その後さらにシリアスな展開が待ち受ける点は面白い。
独白シーンの好きな語り部分はいくつもあるが、なかでも「この国は妊婦が好きだ、股を開くなんて簡単なことなのに」「私は疎まれた女たちとともに沈む・・・」といった名言は心に残る。
都会のアッパー女・エイミーによって、「田舎町・ミズーリ」「フーターズ」「アダム・サンドラー」などが名指しで否定されているのもちょっと笑いどころ。
また、この独白シーンでは男女のありがちな関係性もおさらいできる。
夫婦生活を経て夫が油断し身も心も緩みまくり、従順でかわいい「イイ女」と不倫する一方で、妻のフラストレーションはどんどん積み重なっていく。
この作品はその関係性に待ち受ける最悪な顛末を描いた快作なのだ。
調査を開始する夫と静観する妻・・・そして暴走するマスコミ
エイミーは偽名を使って町はずれのモーテルで生活を始める。周囲のヤンチャそうな住人と距離を置きつつ、“妻殺し”ニックの逮捕・死刑を静かに待っていた。
一方で、幾重にも重ねられたエイミーによる偽装は、ニックをますます追い詰めていく。また、ニュース番組のキャスター・エレンによるエイミー擁護とニック叩きも、彼を追い込む大きな要因だった。
エイミー・マスコミに追い詰められる中、すべての偽装とエイミーの狙いに気付いたニックは、妹・マーゴや優秀な弁護士・タナーの助けを借りて打開策を練る。
ニックらはマスコミを使って「浮気したこと、妻・エイミーを顧みなかったこと」を謝罪、社会を味方につける作戦を決行。ダメ夫・ニックの反撃が始まったのだ!
ちょっぴり感想!
この辺りは独白部分を終えて、後半の山場に向かっていくところ。大きな見せ場は控えめな印象だ。しかし、ブロンドヘアが印象的なキャスターの、劇中見事なまでのヘイト役っぷりには脱帽。
前半からエイミーへの心酔っぷりとニックディスは見せていた。だが、ニックのインタビュー相手となった女性キャスターが、偏見なくトラブルを捉えて報道したこともあって、その傍若無人っぷりはより鮮明になる。
実際、このブロンドヘアのキャスターは、劇中に一度も自身の態度を顧みたことがなかった。責を問われてもとにかく謝らない。傍若無人・厚顔無恥っぷりは、ある意味でエイミークラスのヤバい性格をしている(笑)
絶望する夫と凶行に及ぶ妻
モーテル暮らしをとある理由で辞めて、元カレ・コリングスを頼るエイミー。生活環境そのものは充実していたが、独善的で束縛傾向のあるコリングスに嫌気がさし、とうとう凶行に及ぶ。
コリングスと離れ、再びニックと世間の前に姿を現したエイミーは、警察の質問をかわしかつての生活を手に入れる。ニックや彼を支援していたマーゴ・タナー、そして女性刑事・ボニーは、コリングスと生活している間にエイミーが及んだ行為を察していた。
当然、正式な離婚を考えていたニックだが、エイミーが狡猾なまでの予防策を先んじて打っていたため決断に踏み出せない。歪な関係性の夫婦の行く末とは・・・?
ちょっぴり感想!
この作品終盤、独白シーンと双璧をなすハイライトシーンが登場する。『氷の微笑』のシャロン・ストーンを思い出させる、エログロバイオレンス全てが詰まったあのシーンだ。「悪女映画」ファンなら「キターーー!!!!!」となるやつ。
なお、この辺で観客はエイミーに突き放されていく。中盤まではダメ夫へのムカつきもあって、エイミーに理解を示すこともあるだろうが、そんなのは遠い昔の話。もうこの終盤には「あ、ベンアフさん、まじドンマイっすね・・・」という感情しかもたないだろう。
『ゴーン・ガール』に登場する2つのバー!田舎町の「ザ・バー」と都会的なラウンジ風カフェ&バー
この映画には印象的な2つのバーが登場する。一つは兄妹が営む「ザ・バー」と、一つは終盤に出てくるラウンジ風カフェ&バー。前者はいかにも田舎・ミズーリにあるっぽいショットバーで、なんだか薄暗くて陰険な雰囲気。後者は都会的なカフェ&バー。個人的にこの2つのバーの対比が面白かった。
「ザ・バー」はブラック・グレーを基調にしたような酒場で、昼間に訪れてもなんだか薄暗い。薄暗い店内と無造作に置かれているボトルは、ヤバい女に巻き込まれる兄妹の落ち着かない心境を表しているようだ。この酒場の出資元がそのヤバい女なことも、どこか暗く情けないニックの心境を示している気がする。
ちなみに、この「ザ・バー(THE BAR)」は実在する酒場。劇中ではくら~い雰囲気のある酒場だったが、実際はシックな雰囲気のよくあるバーといった感じ。
一方、作品終盤に出てくると都会的なカフェ&バーらしき飲食店。ホワイトをベースに明るく演出され、天井も高いシャレオツな雰囲気。カウンター席正面には大型テレビとキレイに配されたボトルの数々・・・「ザ・バー」とは正反対なスタイルだ。キレイなバー空間で、タナーがニックへ「危険は去ったよ」なんて半ば他人事で笑うのが印象的。
カフェ&バーでの場面は、この作品随一の明るい雰囲気で撮られている部分だ。「ザ・バー」などほかの暗いシーンとの対比がありながら、当事者・ニックだけは依然として絶望に満ちた顔をしているのが観ていて辛くなる。
なお、「ザ・バー」はトラブル後にエイミーの協力もありチェーン展開(フランチャイズ経営?)したそうだが、このカフェ&バーもその一店舗なのかはよくわからない。
ヤバい女とサスペンスが好きなら『ゴーン・ガール』がおすすめ
鬼才デヴィット・フィンチャーの代表作の一つで、有名な「悪女映画」でもある『ゴーン・ガール』。2時間超の映画だが、サスペンスとして山場盛りだくさんの魅力的な作品なのでおすすめ!