【映画とカクテル・ウイスキー】『17歳』はエロティックなドラマ映画

フランス映画『17歳』とは、とある少女の中で駆け巡る性への衝動を描いたエロティックなドラマ映画。90年代から活動しているフランソワ・オゾンが、モデルのマリーヌ・ヴァクトを主人公に迎えて製作した。

今回はフランス流の上質なエロスを堪能できる『17歳』のあらすじを、お酒などカルチャーに触れながら紹介する。

【こんな人におすすめ】映画『17歳』の魅力

ドラマ映画『17歳』は、エロティックな演出と繊細な人物描写が魅力的な作品だ。17歳~18歳という多感な時期に襲い掛かる漠然とした”何か”を、丹念かつ繊細に描き切る。

ストーリーにおける大きな事件性や起伏は控えめだが、その分だけ短い時間を色濃く、そして深くのでキャラクター・心理描写を楽しみたい方にはおすすめ。

「ラスト○分、あなたは騙される!」みたいな流行りの映画のような楽しさは全くないし、派手なCGもない、そしてエロティックな映画と言っておきながら過激な性描写もほぼない・・・。とにかく刺激的な映画を求めている方には退屈な作品になってしまうだろう。

映画『17歳』のあらすじ

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ストーリーの展開は夏・秋・冬・春の4つに分けて進む。ここでは季節ごとにあらすじをまとめて、あらすじ・魅力を語っていく。ここでザックリと登場人物を整理・・・。

主人公・イザベル:凛とした雰囲気と気だるげな感じをまとった少女で、17歳の夏に初体験をあっさりと済ます。しかし、その後の彼女は思わぬ行動に出る・・・。

シルヴィ・パトリック・ビクター:イザベルと生活を共にする家族。娘を見守ってきたシルヴィ、どこか楽観的な義父のパトリック、イザベルと仲の良い年頃の弟・ビクターの3人。

ジョルジュ:イザベルと売春関係にある老紳士。ほかの「クソ客」と比べてどこか紳士的なジョルジュは、定期的にイザベルと身体を重ねていき独特な関係性を築いていくが・・・。

アリス:ジョルジュの妻で、凛とした雰囲気をまとったマダム。

あっさりしすぎて・・・夏

夏、リゾート地に家族とともに訪れたイザベルは、旅先の海で出会った青年と身体を重ねる。たまに自慰行為を楽しみつつ、弟とも軽い下ネタ会話を交わす程度には性への関心があった彼女だったが、この青年とのセックスによって”何か”のタガが外れてしまったようで・・・?

ちょっぴり感想!

この夏の出来事は、イザベルにとって胸騒ぎのする潮騒とはかけ離れたものだったらしく、ただ何となく「ああ・・・初体験済ましたな」といった感じ。カクテルのパナシェのような爽やかさもなく、塩っ気のあるウイスキーのカリラなどよりもあっさりしている。よほど期待外れだったのか、それとも?

好奇心の先に待つ秋のトラブル!

バカンスが終わった普通の高校生・イザベルは、20歳の大学生「レア」と名乗りネットを使って売春行為にのめり込む。行為の相手はもちろん不特定多数なのだが、その過程には金に汚い男や粗暴な男にも遭遇した。

しかし、ある日の相手は違った。口調・態度ともに紳士的なジョルジュだ。彼は家族に秘密でイザベルと関係を複数回持つ。イザベルは複数回にわたりジョルジュと会うのだが、ある日ジョルジュが行為中に死亡(男の憧れの一つ・腹上死)してしまう。これをきっかけにイザベルと家族の生活は徐々に狂い始める・・・。

ちょっぴり感想!

さて、秋のイザベルはクソ客との行為や家族との会話どちらにもドライで、夏の経験が悪い意味で影響を与えている感じ。かつて弟に「娼婦・売春婦のようだ」と否定されティッシュで拭われた真っ赤な唇や濃いメイクは、様々な男と身体を重ねるうちに「娼婦・売春婦」としてすっかり板につくようになった。

中身が性体験を通してよりドライになる一方で、その場限りの男に興奮されるための色気を身に着けているのは、なんとも不気味なコントラストとなっている。ジョルジュとともに嗜む爽やかな白ワインも、大人っぽいメイクで塗り固めている彼女とは対照的だ。

作品全体の雰囲気が一貫してモノトーン調なため、メイクやファッションを鮮やかに塗り固めているイザベルのおかしさが際立っている。たしかに彼女はキレイなのだけれどね・・・。

なぜ性に関心を抱いたのか?冬の最大の謎

ジョルジュが行為中に死亡した際に、イザベルは動揺して逃げ出したため、ほどなくしてイザベル家にも警察の調査が入る。そして、イザベルの行為は、家族に知れ渡ることになる。激高する母とどこか能天気な義父、そして少し大人っぽく静観する弟。

警察の取り調べ中、イザベルは「行為中は何も感じないが・・・」と行為を重ねてきた理由の一部を悲しげに語る。その後、学友たちが揃うパーティーで、酒池肉林のように盛り上がる同世代の男女を、なんの気にも留めずすべてを達観した大人のように通り過ぎていくイザベル。とある同世代の青年にキスをねだられるが、イザベルはそれ対してもフツーに応じるのだった。

ちょっぴり感想!

この作品はとある少女の性への渇望や関心を題材にしているが、あまり彼女の心情・深層心理を言語化しない。少年少女の性に対する感情は、はなから言語化しにくいものだから観客それぞれがイザベルに感情移入意していくしかない。

強いて言うならば、この冬のイザベルが唯一自分の心情を吐露しているのだが、それも僅かだから不明瞭だ。家族や精神科医にも全く語らず、警察に断片的に述べるのみ。これはイザベル自身もよく自分をわかっていないからなのかもしれないし、それが思春期の性・セックスというものなのだろう。

出会いの季節・春に思わぬ出来事が発生

パーティーで出会った青年とノーマルで退屈な行為を重ねるが、イザベルは心・身体どちらも満たされない。久しぶりに売春行為で使っていた携帯を見ると、とある人物からいくつかのメールが届いていた。

その人物はジョルジュの妻・アリスで、どうやら「夫の最後の女(=イザベル・レア)を見たかった」らしい・・・。行為の料金の300ユーロを払い、あの事件が起きたホテルの部屋「6095室」に入る。さて、その部屋でアリスとイザベルは何をするのだろうか・・・?

ちょっぴり感想!

さて、この春で映画は終わりを迎える。最後にアリスが存在感抜群に登場して、おいしいところをかっさらうのだがイザベルも負けていない。2人の美女のやり取りは必見だ。

イザベルのメイクがあの頃のものではなくて、ドライでノーメイクな彼女自身としてアリスに会いに行った点も印象深い。夏~春の一年間を通して、ノーメイクのイザベルの抱える”何か”を僅かながら理解できた気になった。

ちなみに、ホテルのロビーでアリスは「ウイスキーを2杯」をオーダーし、しばらくするとウイスキーがストレートで提供される。こういうシーンは映画やドラマだと結構見かけるのだが、この時のウイスキーの銘柄って何なんだろうか。そしてなぜストレートやロックなのだろう。クラシカルな映画の頃から同じだから、ちょっとした疑問だったりする。

『17歳』主演・マリーヌヴァクトの美貌

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マリーヌ・ヴァクトはフランスのファッションモデルで、シャネルのメークアップライン「レ ベージュ」のアンバサダーに任命されるなど活躍している。モデルとしても一流だが、この『17歳』で女優としての才能も開花させた。

セクシャルがある種のウリである映画『17歳』だが、マリーヌ・ヴァクト演じるイザベルに甘美なエロスはほぼない。マリーヌ・ヴァクトがモデル出身のスレンダーな女性なのもあってか、男好きする肉感的な表現はかなり控えめ。フランス映画全体に共通するところかもしれないが、露骨な性描写も少ない。

その一方で、彼女にしか出せないヘルシー且つビューティフルなエロスは全面に出ているため、いかにも女性ウケするエロティックドラマ映画といえるかもしれない。

また、軸であるドラマ部分においても、マリーヌ・ヴァクトの良さを堪能できる。主人公の心の奥底にある満たされない“何か”は、最後まで明瞭に描かれることはないのだが、その“何か”の一部分を物悲しく語るシーンでは、彼女の凹凸のある顔立ちとクールな表情が非常に映える。もちろん、照明・演出の妙もあるからこその魅力的な一幕だが、クールビューティーな彼女だからこそグッと掴まれる部分だと思う。

良質なエロティックなドラマ映画が好きなら『17歳』がおすすめ

今回は『17歳』を紹介した。一人の少女の一年間を通して、思春期特有の葛藤や性への渇望を深掘りしていく映画だ。

もし、この『17歳』が気に入るようだったら、フランソワ・オゾンとマリーヌ・ヴァクトが再びタッグを組んだ『2重螺旋の恋人』も観てみたらどうだろうか。もしかしたら気に入るかもしれない。