【映画とファッション】『パンチドランク・ラブ』は異色のロマンチック・コメディ作品

パンチドランク・ラブ』とは、不器用で頼りない男の一目惚れと恋愛模様を描いたロマンチック・コメディ映画だ。監督はポール・トーマス・アンダーソン、主演はアダム・サンドラー。独特なキャラクターと演出が特徴的で、数々のコメディ映画に主演してきたアダム・サンドラーの作品群の中でも、良い意味で異色作になっている。

【こんな人におすすめ】『パンチドランク・ラブ』の魅力とは

『パンチドランク・ラブ』は2002年に公開されたアメリカのロマンチック・コメディ映画。ストーリー上の見せ場の多さや効果的な音楽演出、アダム・サンドラーの風変わりな使い方など、この作品には様々な魅力が詰まっている。

カテゴリー的には「ロマンチック・コメディ」に属しているものの、バイオレンス描写があることや、ウィットに富んだ掛け合いが控えめなところ、陰影のクッキリとしたカメラ・照明といった、それまでの“ロマコメ映画”には見られなかった特色が多い

そのため、同世代で活躍していたメグ・ライアンヒュー・グラント、はたまた偉大な先駆者であるオードリー・ヘプバーンマリリン・モンローらが作り上げてきたロマコメ映画とは似て非なるものだろう。もちろん、リチャード・カーティス作品とも違う雰囲気になっている。

そのため、王道のロマコメが好きな方にはおすすめできない。一方で、一風変わったロマコメが見たい人や、アダム・サンドラーの俳優パワーを感じたい人にはおすすめしておく。

映画『パンチドランク・ラブ』のあらすじ

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シンプルな構成である『パンチドランク・ラブ』は、鑑賞中にそこまで混乱が起きにくい作品。とはいえ、あらすじに入る前に主要人物について一応整理しておく。

バリー:本作の主人公。卸売業を営んでいる気弱で真面目な青年。勝ち気でうるさい姉たちに囲まれながら育ってきたこともあり、不満をため込みすぎると破壊衝動に駆られてしまう。姉たちとは正反対の優しく柔らかなリナと出会うことで、それまでモノクロだった人生がカラフルに彩られていく。
リナ:ヒロイン。物静かで優しいのが魅力。バリーと距離を徐々に縮めていく。
ゆすり屋・ディーン:テレフォンセックスのサービスコールをきっかけに、バリーと因縁ができる。

不器用な男・バリーのモノクロな日々

ロサンゼルスの街で卸売会社を経営するバリーのもとに、柔らかな雰囲気の美女・リナがちょっとした用事で訪れてくる。女性恐怖症気味なバリーは、緊張しながらも彼女とのちょっとした会話を済ませた。

バリーには7人の勝ち気で口うるさい姉がいて、そのせいでバリーは女性が苦手になっていたのだ。そればかりかストレスをため込み気味になり、実際に部屋の窓ガラスを割ってしまうなど破壊衝動に駆られる癖もある。

会社経営の傍ら、安いプリンを買ってマイレージキャンペーンに興じる楽しむバリーは、とある夜にテレフォンセックスサービスを利用する。ちょっとした出来心で遊んだ夜を明けると、サービス嬢から脅迫まがいに迷惑電話がかけられるようになる。危機感を募らせるバリーはサービス会社に明け渡したクレジットカードを停止するなどしたが・・・。

ちょっぴり感想!

バリーの人柄の紹介やリナとの出会いを描く前半、展開自体は起伏の少ない静かなものだ。ストーリーもあまり進まず、これといった見せ場がない。あくまで主題であるリナとの関係、ディーンたちとのトラブルの下準備をしているのみ。

一方で、演出面では面白い部分がある。例えば音に関して。バリーが道路で静かに佇んでいる時に騒音とともにトラックが急に現れるなど、こちらが画面に釘付けになっているところを突き放してくる音の演出は、見せ場の少ない序盤の中で好きな部分かもしれない。

手法としてはスリラー映画などでたまに見られる切り返しのような気がするのだが、ロマコメの本作に取り入れることでその異質さが強調されているような気がする・・・。

また、表題にあるように、可愛くキレイなリナに「パンチドランク(=強烈な恋愛・一目惚れ)」されたであろうバリーの表情が、陰に隠れてほぼ見えない点も好きだ。表情を“暗い”演出で見せないのもロマコメとしては異質で、本作を記憶に残るものにしているように思う。

リナとの初デート!バリーの人生がカラフルに変わっていく

バリーは姉に連れられたリナと再会する。相変わらずなかなかうまくリナと交流を深められないバリーに対して、リナは積極的にコンタクトを取っていく。

リナの誘いをきっかけにレストランで初デートを迎える2人。だが、とあることでバリーはキレてしまいレストランのトイレを荒らしてしまう。レストランから出禁を言い渡され少し気まずい雰囲気で外へ出るが、なんとかホテルの部屋前でキスして気持ちを確かめ合って別れるのだった。

恋を成就させていく一方、バリーはゆすり屋・ディーンたちによって脅され、とうとう500ドルを取られてしまう。散々な目にあったバリーだったが、ハワイにいるリナのもとに訪れ愛を育む。

幸せなバリーとリナだったが、厄介な相手であるディーンたちによって怪我を負わされる。傷ついたリナを見て、臆病なバリーは怒髪天を衝く!!

ちょっぴり感想!

後半導入部分、バリーとリナが初めてきちんと会話する場面があるのだが、この時の演出は劇中屈指の名シーンといえるかもしれない。ここでザックリとその魅力を紹介しておく。

  • 犯罪まがいの請求者からの電話
  • バリーとリナの不器用なやり取り
  • おせっかいな姉の質問攻め
  • 古びたピアノ(ハーモニウム?)
  • 棚から崩れ落ちる商品
  • 大量のプリン

以上の要素がこの名シーンでは画面いっぱいに映され、一見するとなんだか散らかりまくりな印象。さらには不協和音を奏でるBGMも手伝って、観客以上にゴチャゴチャになっているであろうバリーの脳内が上手く表現されている。

このおかしくもシリアスなシーンは、この異色のロマコメ『パンチドランク・ラブ』の良さが凝縮しているような気がするのだ。この後のデートシーンで一瞬キラキラしたロマコメ描写があるのだが、その直後にトイレでバリーのストレスが爆発し、こちらを安心してニンマリさせてくれないのも憎らしい(笑)

『パンチドランク・ラブ』の推しポイント

ここで『パンチドランク・ラブ』の推しポイントをいくつか紹介したい。ネタバレはしていないので良ければチェック!

嫌われがちなコメディ俳優!?アダム・サンドラーの名演

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本作の主人公・バリーを演じるアダム・サンドラーといえば、ウィットに富んだセリフ回しや横柄な態度などが持ち味のコメディアン。『ビッグ・ダディ』『50回目のファーストキス』などを代表作として、作品ごとの評価の差は非常に大きいのだが、おおむねコメディ映画の名手としてアメリカでは人気が高い。女性からは嫌われがちなのだが・・・(笑)

お金・女性にだらしなく、悪友たちとどんちゃん騒ぎするダメ男を演じさせたら天下一品な彼だが、この『パンチドランク・ラブ』ではそのキャラクターを封印している。もちろん、ウィットに富み、下ネタで相手をまくしたてるようなセリフ回しも皆無だ。

悪友たちも登場せず、ビ○チもいない。せいぜい友人と呼べる存在はビジネスパートナーのランスくらいだろうか。

また、セリフを使った説明過多で露骨な成長演出もしない。ただ静かに、表情と態度で人間的な成長を見せていく

そんな具合に『パンチドランク・ラブ』はアダム・サンドラー出演作品の中でも異色となっており、柔らかに時に激しく喜怒哀楽を表現する彼の別の魅力を堪能できる。もしかしたら、飛びぬけてファンの多い作品でもあるかもしれない。

もちろん、天才監督であるポール・トーマス・アンダーソンによる手腕も大きいのだが、彼の期待に見事応えたアダム・サンドラーも十分に偉大だろう。

書いていてふと思った。

本作の良さを精一杯堪能するためには、ほかのアダム・サンドラー作品やベターなロマコメ映画をいくつか観てから鑑賞するのがおすすめ。

リナ役のエミリー・ワトソンの可愛くもキレイなファッション

ヒロインを演じたエミリー・ワトソンは、アダム・サンドラーとともに本作を盛り上げてくれる主要キャストだ。ここでは劇中をキレイに彩った彼女のファッションを取り上げてみる。

彼女は劇中で何度か衣装チェンジしている。一番印象的なのは、初デートの時のレッドのドレッシーな装いだろう。相手のアダム・サンドラー(バリー)がブルースーツのため、レストラン・街中・ホテルの一室などロケーションを問わず、2人のファッションは非常に美しいコントラストとなっている。

また、ハワイでのホワイトのややカジュアルなファッションも、ハワイの情景にマッチしていて素敵だ。レッドドレスの時に大人なキスをした一方で、こちらではちょっとピュアな感じで手をつなぐシーンが印象的に映った。

ホテルの部屋着で着用していたホワイトTシャツとピンクパープルのパンツコーデも、彼女の柔らかな雰囲気が出ていて素敵。

アダム・サンドラーが基本的にブルースーツのスタイルを崩さず、引き立て役に徹するため、様々なファッションに身を包むキュートでビューティフルな彼女がより鮮明なかたちで魅力的に映る気がする。

ベターなロマコメに飽きた映画好きには『パンチドランク・ラブ』がおすすめ

異色のロマコメ映画『パンチドランク・ラブ』は、ストーリー展開・演出面・キャラクター構成などに秀でた良作。紹介した内容以外にも、独特のフレア演出などたくさん独特な魅力に溢れている。シンプルでベターなロマコメに飽きた人は、ぜひ本作を鑑賞してみてほしい。