【映画とキスシーン】名作ロマコメ『ノッティングヒルの恋人』で描かれた2つのキスの意味

『ノッティングヒルの恋人』とは、イギリスのロマンティック・コメディ。世界に数多あるロマコメ映画の中でも、トップクラスの人気と知名度を誇る名作の一つだ。名脚本家であるリチャード・カーティスの腕がいかんなく発揮され、ジュリア・ロバーツとヒュー・グラントがW主演を務めたことで知られる。

【こんな人におすすめ】『ノッティングヒルの恋人』の魅力とは

ノッティングヒルの恋人より

『ノッティングヒルの恋人』は1999年に公開されたロマンティック・コメディ映画で、そのユーモラスかつハピネスな作風で当時大ヒットを記録した。1990~2000年代を代表するロマンティック・コメディの名作であり、観るものの心を鷲掴みにして離さない。

本作でジュリア・ロバーツはスター女優の地位をさらに盤石とし、”ロマコメの帝王”ヒュー・グラントと人気脚本家リチャードーカーティスの2人は名タッグとして広く知られる存在に。ある程度ご都合主義的な側面はあるものの、全体的によくまとまったストーリーと小粋な演出・セリフ回しが秀逸だ。

クラシカルな映画に片足突っ込んでいるが・・・ベタなロマコメ展開にキュンキュンしたい人にぜひ観てほしい作品である。

映画の『ノッティングヒルの恋人』のあらすじ

ノッティングヒルの恋人より

ここで『ノッティングヒルの恋人』のあらすじ・登場人物を軽く紹介していく。ネタバレはしないので未鑑賞の人もご安心を。

『ノッティングヒルの恋人』の登場人物

『ノッティングヒルの恋人』は首尾よくまとまったロマコメ作品であり、複雑な人間関係などは皆無。メイン2人を中心に、下記のようなひと癖ある仲間たちがストーリーを盛り上げる。

アナ・スコット:本作の主人公で、ハリウッドのスター女優で役作りのためにロンドンへ来訪した。浮世離れした存在だが、どこか冴えない本屋書店店長・ウィリアムと出会い、互いに惹かれあっていく。

ウィリアム・タッカー:ノッティングヒルで旅行書専門の書店を営む青年。物静かで穏やかな性格、バツイチで周りの友人は変人ばかり、いつもどこか冴えない不幸体質。赤字も出すほど流行っていない彼の本屋に、スター女優のアナが突然訪れてきたことをきっかけに、彼女と親しくなっていく。

スパイク/ベラ/マックス/ハニー/マーティン:ウィリアムの家族と友人たち。変人も多いがみんな心暖かく、ウィリアムと信頼し合っている。アナとの恋愛を見守りつつ、恋模様を彩るロマコメには必要不可欠な存在。

スター女優と冴えない本屋店主の突然の出会い!

ノッティングヒルの恋人より

冴えない男・ウィリアムはいつも通りノッティング・ヒルの市場とトボトボ歩き、自分が営む流行っていない書店へ出勤する。出勤して従業員のマーティンから赤字の報せを受け少し落胆しているところ、ハリウッドのスター女優・アナが突然訪れる。

ウィリアムは「あれ・・・?どこか見たことのあるキレイな人だな?」なんて感じで目を奪われつつ、先客でいた万引き未遂犯を諫める。アナと万引き犯について目で会話して微笑み合い、彼女は本を買って去っていく。

その後、街角で再び出会ったウィリアムとアナ。アナに自分の持っていたオレンジジュースをかけてしまったウィリアムは、謝罪の念から近くの自宅に招き、服を着替えてもらうことに。スター女優相手にたどたどしく謝りつつ、「お茶でも?」と気を遣うウィリアムの申し出を断る。

ウィリアムのカバーリングは悉くアナに断られるが、、、別れ際に彼女からなんとキスをされる。平凡でモノクロなウィリアムの人生が、アナの登場でカラフルに彩られていく。

ちょっぴり感想!

ここまでが冒頭のあらすじ。これ以降、すったもんだありながら2人は関係性を深めていくことになる。女性優位の格差恋愛を描く基本プロットは名画『ローマの休日』を彷彿とさせ、メイン2人とその友人たちの人間模様はベタそのもの。

本作オリジナルな要素は少ない。しかし、序盤の「シュールだけど楽しい」というセリフ回しなどリチャード・カーティス節を実感できる部分や、ウィリアムがノッティング・ヒルを歩く時のさらりと美しい演出など、凡作にはない気の利いたところも数多くある。

同時代に活躍したスター女優のメグ・ライアンを引き合いに出しながら、会食中のサラリーマンたちがアナ・スコット(ジュリア・ロバーツ)を評しているところなど、メタなネタもあって良い。まあ、あのシーンに関しては「スター女優をああいう人たちのいるオープンな店に連れて行くなよ」と、ヒュー・グラントに思ったが(笑)

『ノッティングヒルの恋人』における2種類のキス

ロマコメの傑作である『ノッティングヒルの恋人』には、作品上に意味のある2種類のキスがある・・・と思う。それは「頬へのキス(≒チークキス)」と「唇への本気キス」だ。恋愛心理学などでは度々「キスする場所にはそれぞれ意味がある」と論じられるが、本作においては映画的な部分でも意味が異なっている。

頬へのキス(チークキス)は事件の前触れ

チークキスは欧米諸国だと挨拶代わりにも行われるもので、相手にフレンドリーさを表現できる手段。アナとウィリアムもこのチークキスのようなライトなキスをする場面がある。印象的なのが2シーンあり、初デート終わりにウィリアムがアナのホテルの部屋に訪れた時の頬キスと、仲違いから関係修復中のおやすみの頬キスだ。

どちらも軽いキスでフレンドリーさの表現ではあるのだが、映画的な意味合いを考えてみると「頬キスは何かの出来事の前触れ」としても置かれている。ホテルで頬キスはその直後にすれ違いトラブルが起こり、おやすみのキスはその直後に2人が結ばれる前段として描かれていた。頬キスは何か大きな出来事の予備スイッチとして機能しているのだ。

また、頬キスは観客の期待を高め、心理的に焦らすための装置としても機能する。本作では導入部分のアナがウィリアムにした唇への本気キスなど、前半ですでに2回のガッツリしたキスシーンがあるため、観客のロマンティックなキスシーンへの渇望は欲張りなものになっている。その状況で2度の頬キスを挟むことで、観客の期待を良い意味で裏切っているのではないだろうか。

唇への本気キスはキャラクター説明

唇へのキスは頬よりも深い愛情を伝える場合に使われる。男女の仲をより深めるキスの王道である。本作ではそんな唇キスも複数回描いている。重要な意味を持っていそうなのは導入部分のアナからウィリアムへのキスと、”ウプシーデイジー”のコミカルなやり取りの直後に合ったキス、そして一夜を迎える時のキス。

3つのうち2つめまでは積極的なアナからの唐突なキスで、恋愛に若干奔放なアナのキャラクターが全面に出ているシーンである。一方で、一夜を迎える時のキスは初めてウィリアムからの本気キスで、遠慮がちな彼のアナへの覚悟がわかるシーン。

頬キスと異なり物語の転換装置そのもので、2人の関係性の一区切りを描いている。そして、2人の対照的なキャラクター性もキスシーンを介して表現できているだろう。頬キスとともに本気キスも映画上で大事な役割があるのだ。

映画『ノッティングヒルの恋人』はリチャード・カーティスによる名作ロマコメ

『ノッティングヒルの恋人』は主演2人の魅力が爆発し、ロマコメの名手であるリチャード・カーティスのセンスが光る名作映画。ロマコメならではのご都合主義な部分が気にならない人、ひたすらキュンキュンしたい人はぜひ見てみてほしい。