【映画と音楽】『ベイビー・ドライバー』のネタバレとヒットした魅力を紹介

映画『ベイビー・ドライバー』は“音楽×カーチェイス”が魅力的なアクション作品。近年の良作B級映画請負人といえるエドガー・ライトが、爽やか若手俳優のアンセル・エルゴートやリリー・ジェームズ、一癖あるベテランのケヴィン・スペイシーらを迎えて製作した。

今回はエドガー・ライトの傑作『ベイビー・ドライバー』のネタバレ・あらすじのほか、音楽などのカルチャーに触れながらその魅力を紹介する。とはいえ、ブリティッシュロックなどにはあまり触れてこなかったので、全然詳しく書けないだろうけど・・・。

【こんな人におすすめ】映画『ベイビー・ドライバー』の魅力

アクション映画『ベイビー・ドライバー』は、劇中で繰り広げられるチェイスシーンが非常に疾走感に溢れていて魅力的だ。また、ストーリー展開に合わせた音楽演出も、この作品の魅力の一つ。細かい部分で多少ツッコミどころはあるものの、ある意味で演出・ノリ重視の「雰囲気映画」として非常に楽しめる

一捻りあるストーリー展開や人物の細かい心理描写、秀逸な脚本重視の人にはあまりおすすめできない。一方で、音楽などの演出・カメラワーク・キャラクター造形などを楽しみたい人にとっては良作になると思う。

映画『ベイビー・ドライバー』のあらすじ

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作中では大きく分けて4回のチェイスが繰り広げられ、ストーリー上でそれぞれ重要な意味がある。ここではチェイスシーンごとに大別し、あらすじと音楽演出について触れていく。その前に少しだけ登場人物整理・・・。

主人公・ベイビー:天性のドライビングテクニックを活かして、強盗グループの運び屋をする。無口な性格、公私ともに常にイヤホンで音楽を聴いている。なにやらドクに貸しがあるようで・・・。

ヒロイン・デボア:ダイナーで働く新人ウェイトレス。明るくキュートな人柄で、客としてきたベイビーとも仲良くなる。しかし、それをきっかけに裏社会のアレコレに巻き込まれていく。

バディ/ダーリン/バッツ/グリフら:ベイビーやドクとともに仕事をする強盗グループのメンバー。案件ごとに集散するため、各人の関係性はおおむね希薄。

ドク:ベイビーら強盗グループを取りまとめるボスで、強盗の作戦は彼が主導する。裏社会における影響力は凄まじいらしい。

ファースト・ミュージック×チェイス

開幕、さっそく強盗作戦が決行。車内に残るベイビーは、一人で「ベルボトムズ」を聴いている。ギタリストのジョン・スペンサーによる名盤『オレンジ』に収録しているこの楽曲は、ベイビーの超絶ドライビングとの相性抜群。

エドガー・ライトが観客への挨拶代わりともいえる、圧巻のファースト・ミュージック×チェイスを見せつける。チェイスシーン(仕事現場)が終わると、場面が変わり自宅でのモーニングシーン。軽快なジャズ・ポップをバックに、ベイビーは耳と足が不自由な養父へモーニングセットを軽やかに用意する。シーンごとに合わせた緩急ある音楽演出は、自然と身体が揺れてくるほど最高。

これ以外にもエドガー・ライトによる音楽演出は冴えわたる。仕事現場で録音した強盗犯たちの音声を使ってミックステープを作成する、ダイナーでデボアと出会いカジュアルポップな雰囲気が広がるなど・・・どれも印象的な場面。特にベイビーが自室でミックステープを黙々と作るシーンはお気に入り。まるで東海岸の大物プロデューサー・DJプレミアのごとく、下品で粗暴な強盗犯たちのセリフを、クラシカルなヒップホップ調サウンドに再構築するのは興奮ものだ。

セカンド・ミュージック×チェイス

ドクへの貸しの清算が済みそうな時期、デボアとの恋もありベイビーは裏社会からの脱却を決意する。決意を新たに挑むセカンドチェイスは、ベイビーがロックバンドのダムドによる「ニートニートニート」を選曲し、ファーストチェイスと同じく激しいセカンドチェイスを展開。

仕事を終えて、無事にドクとの貸し借りを清算したベイビーは、デボラと関係を深めていく。ここらへんのデボラがガーリーなメイクが似合っていて、キュートでチャーミング。そりゃ、ベイビーは惚れ込むよな~ってくらいに。

特技を活かしてピザ配達のアルバイトしたり、デボラと高級レストランディナーを楽しんだり・・・ヒップホップの元ネタとしても人気の「Bongolia」をバックに、表社会をノリノリで満喫するベイビー。しかし、一度繋がったドクや裏社会の影がチラつき、半強制的に元の仕事に戻ることになった。この辺りや終盤のシリアスシーンでは、キャッチーな音楽演出が鳴りを潜める。加減のわかる男、エドガー・ライトの絶妙なバランス感覚なのかな。

サード・ミュージック×チェイス

ベイビーの復帰仕事一発目、ほかのメンバーは殺しも辞さない粗暴な男・バッツ、クールなイケオジ・バディ、そしてバディのヤンチャな彼女・ダーリン。揃いもそろって個性的でまとまりのないメンツだ。バッツが「テキーラ!」てな具合に暴走するだけでなく、彼らに反発するベイビーの行動もあって仕事はトラブル続き。このサードチェイスを通して、ベイビーとデボラ、そしてバディの間に因縁が生まれる。

この終盤に差しかかるときストーリーとしてはもちろん、ベイビーの感情が爆発する点も必見。チェイスにもそれまでと違う展開が見られる。ベイビーが街中を疾走する、カーチェイスならぬランチェイスはドラマを最高潮に盛り上げてくれる。

個人的にはこのサードチェイスがハイライトだったりして。このチェイスではFocusの『Hocus Pocus』という曲が採用されているのだが、映像・音楽のマッチングがこれ以上ないくらい最高に仕上がっている。このときは心の中でベイビーを「ベイビー逃げろ!逃げて、逃げ切ってデボラと幸せになってくれ!」と願うばかりだった。音楽的演出が裏に回るシリアスシーンも含めて、エドガー・ライトはこちらを全く飽きさせない。

ラスト・ミュージック×チェイス

壮絶且つ爽快な逃避行の末、追われる身となったベイビーは養父に別れを告げ、最愛のデボラと連れて逃げ出す。2人を因縁の相手・バディ(&警察)が追いかける展開は、劇中のラストチェイスだ。ここでは何度追い込んでもゾンビホラーのように蘇るバディや、ボス・上司としてベイビーを庇うドクなど、わき役たちが映画を盛り立ててくれる。

ベイビーとデボラの結末は、彼らの将来を祝う読後感の良い爽やかなもの。ラストに流れるサイモン&ガールファンクの『ベイビードライバー』をBGMに、2人はネクスト・ミュージック×ドライブに出かけるのだった。

『ベイビー・ドライバー』の個性とエドガー・ライト

監督を務めたエドガー・ライトは、近年のB級映画の名手として、映画界で確固たる地位とプロップスを築いている。これまでサイモンペッグやニックフロストらとともに、極上のB級映画を量産してきた。ホラーやコメディ、サイコスリラー、SFなど作品によってジャンル・カラーは違うものの、作品ごとに打ち出したいユニークさは明確。

『ベイビー・ドライバー』でいえば、”音楽×アクション”が一つの個性といえるかもしれない。本作の主人公・ベイビーは、複数のプレイヤーを持ち歩きボーダーレスで聴きまくる音楽ヤリチン。なんとなくだが、エドガー・ライトの作風の自由奔放さを重ねずにはいられない。

また、ベイビーは音楽と同じで、仕事・プライベート問わずこれといった愛車を持たない。いや持てないだけか。いずれにしても、ここに愛車のような存在があれば、それはそれで映画として一つ違った面白み・深みも出たんだろうなと妄想する。

さて、ヒロイン・デボアのメイクやファッションは過剰なほどキュートだが、なんせノリノリなエドガー・ライト作品。やりすぎな演出はなんら問題にならない。彼女のトラブルへの順応っぷりも非現実的なほどすごいが、それも含めてノリノリでドライビングするのがこの『ベイビー・ドライバー』なのだろう。

『ベイビー・ドライバー』は興行収入もノリノリだった!

『ベイビードライバー』より

音楽とカーチェイスでノリノリに突き進む『ベイビー・ドライバー』は、内容だけでなく商業面でも快調だった。日本国内の興行収入は3億円以上、世界で見積もると230億円(2億ドル以上)もの売り上げを達成。エドガー・ライトは近年でもトップクラスのB級映画監督・プロデューサーだが、本作の快進撃を考慮すると”B級”ともいえない作り手だろう。実際、エドガー・ライトの最大のヒットは『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』の4700万ドルであった。その4倍以上の興行的成功を収めた『ベイビー・ドライバー』は、彼の映画監督としての立ち位置を変質させる一作になったかもしれない。

 しかし、次作である『ラストナイト・イン・ソーホー』は、世界での興行収入が2000万ドル程度に収まった。これまで以上に製作費をかけ、勢いそのままに公開を仕掛けたのにも関わらずだ・・・。

『ラストナイト・イン・ソーホー』から見て取れるテーマは【サイコスリラー×60年代ポップカルチャー】であり、近年のリバイバルブーム・レトロブームに乗っかったものだった。にもかかわらずヒットしなかったのは、彼のファン層にそのテーマがウケなかったのか、宣伝不足だったのか、コロナによる外出自粛の影響が強く出たのか、はたまた『ベイビー・ドライバー』が突然変異的にヒットしただけだったのか、詳しい理由はわからない。内容をコメディチックにして、脇役にサイモン・ペッグとニック・フロストを揃えていればまだ多少違ったのだろうか。とにかく、彼らのファンとしては少しガッカリな現状だった。

雰囲気映画や音楽映画が好きなら『ベイビー・ドライバー』がおすすめ

今回は『ベイビー・ドライバー』を紹介した。4回のチェイスと音楽演出を軸に、その雰囲気を堪能できる映画だ。

もし本作が気に入るようだったらサントラを通して聴いてみたり、ほかのエドガー・ライト作品を漁ってみたりするとより楽しい。サイモン・ペッグとニック・フロスト、そしてエドガー・ライトの三位一体の魅力をぜひ味わってみてほしい!